自閉スペクトラムの作家が自閉の子どもの心のうちを、
読みやすい物語につづりました。
「こういう環境ならおびえずにすんだかもしれない」
家族の成長の姿を描きました。
当事者をとりまく方々に贈り物にできるよう
美しい本に仕上げました。
――作者前書き――
どうしてこの本を書きたかったのか。
私はこの童話の主人公、ゆめ、と同じく、自閉です。
2003年の1月、発達障害の一種、アスペルガー症候群と診断を受けました。
日々の生活は、ずいぶん過ごしやすくなってきましたが、困ることもまだあります。
自閉について知ったのは、もちろん診断を受けてからです。
生まれつきの障害なのだから、治ることはありません。
でも、「自閉」の特徴を受け入れたあと、一つの目標ができました。
どうゆう環境なら、おびえずに生活ができるのか知ってもらいたいというものです。
自伝を出版させていただいたあと、講演の機会に恵まれました。
私が自閉独特の世界観を話すことによって、新しい発見を持ってかえられたお母さんや療育関係の方々がいらっしゃいました。
しかし、当事者の方や、講演に来てくださった皆さんから教わったこともたくさんありました。
先々で、私自身も大きく成長させていただいたのだと思っています。
障害を抱えていても、それを受け入れてくれる人々に、たくさん出会うことができたので、これまでの人生に意味を感じることができるようになりました。
家族が、自閉のもつ特有な考え方や身体の問題を知ってくれたことで、おびえる環境も少しずつ減ってきました。
そういう出来事を、いいことに還元できたらいいなと思い、私はこの童話を書きました。
母が残してくれている育児日記を読むと、赤ちゃんのときの私は音楽や本に興味を持っていたようです。
幼稚園の作品を見ると、手先が不器用なりに頑張っていたんだな、とも思いました。
自閉の私ですが、家族や友人のおかげで、くじけたときも何とか立ち上がることができます。
今は、我慢ばかりし続けると体に悪いし、息抜きをしよう、と自分で気づけるようになってきました。
つい休憩を忘れてしまう私の脳の特性は、周りの人たちのおかげで、健康的になってきたように思います。
環境と、それぞれの工夫次第で、アスペルガー症候群を含め、自閉の子どもたちが成長することは可能なことです。
「こんなふうに指導してもらったら、もっと幼稚園生活を楽しく過ごせるはず」
それをテーマにして物語を書くことで、ここまで支えてくださった方々に恩返しができたら、とても嬉しいです。
2004年 12月 藤家寛子
あの扉のむこうへ
自閉の少女と家族、成長の物語
藤家寛子 著
1,600円+税
――目次――
1 プロローグ
2 涙のわけ
3 迷路の入り口
4 出口を捜しながら
5 出口の先にある長い道へ
6 募る不安
7 ひとすじの希望
8 努力への道
9 ゆっくりするから見えてくるもの
10 クリスマスの願い事
11 みんな仲良くしたいのに
12 スマイルマークに弓矢をはなて!
13 ひとりじゃないから
14 ランドセルに託す未来
15 みはらし小学校に向かって
16 エピローグ
藤家寛子エッセイ「今さらごめんね」
●ナスのはさみ揚げが「気持ち悪い!」だったワケ。
●雨の日は「絶対学校に行かない!!」のワケ。
●結局、一番なついていたのはお母さんだったこと。
●私に「お父さん」ができ始めた事実。
●ミラクルウーマンだった祖母。